「調理中に何度もフードに頭をぶつける」「のぞき込まないと中が見えない」。こうした悩みは、身長175cm〜180cmほどの人がキッチンで感じやすい問題です。とくに家庭用や狭めの厨房では、設置基準に従っているはずなのに「なんとなく使いにくい」と感じることが多くあります。これは、設計段階で身長の個人差が十分に考慮されていないために起こる不具合です。
一見小さな問題に見えますが、毎日の積み重ねによってストレスや不快感が蓄積され、作業効率の低下や注意散漫による事故の一因になることも。しかも、自分にとっては不便でも「そんなもの」と受け入れてしまい、改善の余地に気づかないまま使い続けているケースも少なくありません。だからこそ、「自分に合った高さ」とは何かを改めて見つめ直すことが大切です。このセクションでは、背が高い人の視点からレンジフードの適切な高さについて掘り下げていきます。
何cmなら快適?理想の作業環境とは
身長が175cm〜180cmある人にとって、レンジフードの一般的な設置高さは必ずしも快適とは限りません。よくある基準として、コンロから800〜900mmという目安がありますが、この数値は平均的な身長(日本人男性で約171cm)をもとにした設計であり、背が高い人にとっては“低く感じる”ことが多いのです。とくに前かがみになる作業が多い場合や、調理中に何度もフード下に顔を出すような動線では、目線の位置と干渉してしまいがちです。
快適な作業空間をつくるには、「目線よりも少し上」にフードの下端がくるような設計がひとつの目安となります。たとえば身長180cmの人であれば、コンロから950〜1000mm程度の設置が体感的に楽と感じられることが多いです。ただし、それによって吸引効率が下がったり、グリスの飛散範囲が広がるなど、他の問題が生じることもあるため、単純に“高くすれば良い”とは言い切れません。
また、天井の高さやキッチンの広さ、調理スタイルなどによっても「快適な高さ」は変動します。そのため、一律の数値を鵜呑みにするのではなく、自分の身長や動きに合わせたバランスを取る視点が重要になります。特注の設置や設計変更が難しい場合でも、小さな調整や周辺機器との配置変更で快適性を大きく改善できることがあります。
固定高さを前提にしない発想が必要
これまでのキッチン設計では、「レンジフードの高さ=規定値で固定」という発想が一般的でした。しかし、身長や作業内容の違いが多様化している今、その固定観念は見直されつつあります。とくに業務用厨房では、複数のスタッフが入れ替わり立ち代わり調理を行うため、「誰にとっても使いやすい設計」が必要不可欠です。
その対策として、可動式や昇降機能付きのレンジフードを採用する動きが徐々に広がっています。高さを数段階で調整できる機構を備えることで、使用者の身長や調理内容に応じてベストな位置に変更できるというものです。また、天井が高い空間であれば、吊り下げ式の支持フレームを使って微調整する方法もあります。
さらに、フード本体ではなく周辺環境を見直すアプローチも有効です。たとえば、IHや調理台の高さを調整することで、相対的にフードとの距離感を変えられます。あるいは照明の角度を工夫して視認性を高めることで、フードとの接触を未然に防ぐといった細かな工夫も、実際の現場では効果的です。
重要なのは、「規格通り」に固執せず、「誰が・どんな動きで・どう使うか」を出発点に高さ設計を考えることです。そこに視点を変えることで、使いやすさと安全性の両立がぐっと近づいてきます。
背の高い人向けに工夫された現場の声
実際の現場でも、身長175〜180cm前後の作業者が快適に使えるよう設計されたキッチンは少しずつ増えてきています。たとえばある飲食店では、従業員の大半が高身長であったことから、フードの設置高さを通常よりも80mmほど高く調整しました。結果として「頭をぶつけることがなくなり、姿勢も楽になった」との声が多く上がったといいます。吸引力の確保にはフードの奥行とファンの性能を高める工夫を施し、全体としてバランスのとれた厨房空間を実現しました。
住宅リフォームの現場でも同様です。夫婦どちらも身長が高い家庭では、既製品のままでは不便が多かったため、あえてフード本体を吊り下げ式のアームで支え、数cm単位での位置調整が可能な構造に変更。キッチン天井が高かったことで、その自由度を生かした柔軟な対応ができました。
いずれの例でも共通しているのは、「実際に使う人の体格や動き」を前提に設計を進めたことです。これにより、数字上の“正しさ”ではなく、体感としての“快適さ”が実現されています。製品仕様や空間に制約があっても、工夫次第で改善は可能です。現場の声を拾い上げる姿勢こそ、設備設計における大きな価値といえるでしょう。
「身長別設計」を意識することが快適性につながる
快適で安全なキッチン空間をつくるうえで、多くの場合見落とされがちなのが「誰が使うか」という視点です。とくにレンジフードは、高さの固定観念が根強いため、利用者の体格や姿勢の違いに対応しきれないまま設置されるケースが少なくありません。しかし、身長差は日々の作業のしやすさに直結し、小さな不便がやがて事故や疲労につながることもあります。
そうしたリスクを避けるためには、設計段階から「身長別に適した高さ」を意識することが重要です。平均的な数値ではなく、使う人の動作や目線に沿った高さ設定を行うことで、ぶつかりやすさや作業の窮屈さを大きく軽減できます。加えて、IHやシンクの高さ、調理器具との位置関係も含めて、全体のバランスを見ながら調整することが求められます。
また、設計者や施工業者だけでなく、実際に使うスタッフや住人とのヒアリングを行うことも、具体的な改善につながります。「どこに違和感があるか」「どうすれば動きやすいか」を共有することで、より実用的な設計が可能になります。
こうした積み重ねが、「誰にとっても使いやすいキッチン」の土台になります。もし現在の設備に少しでも違和感がある場合は、目の前の状態が“最適”かどうかを一度見直してみる価値があります。
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誰にとっても使いやすい空間づくりを目指して
レンジフードの高さは、身長が高い人にとって日常的なストレスになりやすい問題です。ぶつかる、見えづらい、作業姿勢が不自然になる――こうした不快は、快適性の損失だけでなく、長時間作業における集中力の低下や安全性の低下にもつながりかねません。
そのため、設備の高さは“標準”という枠にとらわれず、使う人に合わせて調整されるべきものです。ほんの数センチの違いが、使い心地を大きく左右することもあります。特にキッチンという日常的に使う場所では、その影響は無視できません。
設計や施工の段階で「誰が使うか」という視点を持つことで、日々の動作や体への負担を大きく軽減できます。設備に違和感を覚えたら、それは改善のサインかもしれません。すでに設置されている設備でも、見直すことでより快適な空間に近づける可能性があります。
小さな気づきをきっかけに、空間づくりを再設計する。その一歩が、長く安心して使える設備環境へとつながっていきます。